戦略⑥ 人事評価制度の導入・運用
「人事評価制度」は、人材を育成する仕組みです。 「経営計画」を策定、実行、実現するために必要な人材を育てるエンジンとして不可欠な「戦略」です。
「人事評価制度」は、「評価制度」「賃金制度」「昇進昇格制度」の三つの制度で構成され、相互に関連しています。 評価の結果は賃金や賞与、昇進や昇格に反映させることになりますが、本書では人材育成のエンジンとなる「評価制度」を中心に解説をしていきます。
この「評価制度」の運用は、第4・5章で解説する「ビジョン実現型経営計画」 成功のカギとなる三
つのPDCAの一つだからです。
「評価制度」というと、イコール「査定」、「社員の優劣をつけるためのもの」というイメージを持つ方も多いのですが、こうした認識は誤りです。
「評価制度」は、「戦略」を社員に実行させながら会社が求める人材像に育成する仕組みであり、経営目標を達成し、社員全員の幸せを実現することが本来の目的です。
戦略⑦ 要員計画にもとづいた戦略的採用
「人材戦略」には、採用に関しても計画にもとづき実行していくといった内容も盛り込むようにしてください。採用について中小企業が取り組むべきことは、「要員計画」と「採用活動」の二つです。
「要員計画」とは、「5ヵ年事業計画」のところで説明した「人員計画」をより詳細にした、「経営計画」を達成するために必要な採用、配置計画です。
「5ヵ年事業計画」に応じて各年度末の必要人員を決めていきます(この表では「5ヵ年事業計画」の
項目のうち、売上のみ表記しています)。採用は、新卒か中途か、パートや契約社員を雇用している場合はその人数も計画した方がよいでしょう。
「採用活動」については、各年度で必要な採用人数を獲得するための具体的な計画を立てます。 担当責任者、面接者の選定・教育、求人方法・媒体選定、採用コンサルタントの活用、部門リーダーや協力者の役割 会社説明会の企画、 試験方法や内容、ホームページや採用ツールの制作などを決め、 年間スケジュールを立案し、計画的に推進してください。
また、「5年後の社員人材像」や「行動理念」にもとづいて新卒・中途社員に求める 「人材像」を明確にしておくことも重要です。
採用には、大きな労力とお金がかかります。また、好景気による大手の積極的な採用活動により、中小では人材の確保が厳しい状況が続いています。 綿密に、そして他社の事例や情報などにアンテナをはりながら、計画的に取り組んでいきましょう。
戦略⑧ 幹部・リーダーの計画的育成
中小企業で社員の教育を、計画的かつ継続的に行っている会社はごくわずかです。ですから、本来はこれに取り組むだけでも他社との大きな差別化になり、自社の強みとなります。 しかし、残念なことに、この社員教育の重要性に気づいている社長は多くありません。本書をお読みのみなさんにはぜひ徹底して取り組んでいただきたい「戦略」の一つです。とはいっても、これまで計画的に教育を行ったことがない会社はどこから手をつけたらよいのか迷ってしまうはずです。教育というと、外部研修や研修講師を招いて行う方法を考える方が多いでしょうが、このようなやり方ではお金も時間もかかります。
中小企業の人材教育には、効果が出やすいステップというものがあります。 まずこれを理解し、実践してください。
それは、上位職から教育をしていくということです。教育の量、質とも上位職ほど厚くしてくださ
い。
ところが、中小企業ではこの逆が非常に多く見られます。 接客・マナー研修や新人研修、営業研修などを中心に行うというパターンです。一時的な効果が見込める場合もありますが、本質的な組織の強化にはつながりません。
社員教育はまず経営幹部からはじめることがポイントです。
「5年後の社員人材像」のリーダーに求めるレベルのなかから自社の幹部に不足していて重要な要素を決めます。 これにもとづいてリーダー、それも経営層に近い幹部がどんなことを学ぶ必要があるのか書き出してみましょう。
これをまず社長一人で行ってください。
外部の研修会社やコンサルタントに幹部研修プログラムの案をつくってもらっても継続的な成長の効果は期待できません。そのような会社は、どんなお客様にも当てはまりやすい最大公約数的なプログラムを「御社のために開発しました」と提案します。そうしたものには、一時的に効果があるものもある
かもしれませんがあなたの会社の幹部に必要でないものが必ず含まれており、少なからず時間とお金を無駄にしてしまいます。
自分の会社の幹部の仕事ぶりと成果をいちばん知っているのは社長です。 社長自ら教育内容を考えるようにしてください。 外部に頼むかどうかを検討するのはそのあとからでかまいません。
最初は社長自ら講師をつとめるのがベストです。何から手をつけてよいかわからない、研修なんてやったことないという方は、自ら定めた理念の教育を行ってください。詳細な研修スケジュールやレジュメなどをつくる必要はありません。幹部社員との定期的な理念ミーティングからのスタートで十分です。ただし、継続して定期的に行うようにすることがポイントです。