前回までの記事では「経営計画」を通じて人材を育成する、「アクションプラン」と「個人アクションプラン」という二つのPDCAサイクル運用の仕組みをご紹介しました。今回、このサイクルの運用と平行して行うことで、人材の成長を加速させる方法をご紹介します。それが、できるだけ多くの場面で社員に「経営計画」を意識、浸透させる仕組みです。
仕組みはぜんぶで八つあります。
順にご紹介していきます。
◎1 「経営計画」は「ビジョン実現シート」にまとめなさい
作成した「経営計画」は一枚のシートにまとめてください。このフォーマットを「ビジョン実現シート」といいます。
「経営計画」作成、実行の目的は「ビジョン」を実現し、全社員が幸せになることです。そのための「会社の行き先」やその「行程」と「日程」がすべて盛り込まれています。
「そんな重要な「経営計画』をたった一枚のシートにまとめてしまって大丈夫?」と不安に思う方もいらっしゃるでしょう。 経営計画づくりに取り組んだことがある方だったら、分厚い冊子にまとめられた経験もおありかもしれません。
では、そんなみなさんにお聞きします。
「その経営計画を実践することはできましたか?」
「その経営計画を使って成果が出ましたか?」
「ビジョンが実現し、理念に近づいていますか?」
たぶん、「NO」と答える方の方が多いのではないでしょうか。「YES」という方はこの本を手にとる必要がないからです。とはいえ、「YES」でもさらに高い成果や社員を成長させたいという方にとっては、本書は非常に有効です。そういう方もきっといらっしゃるでしょう。
少なくとも450社超の「経営計画」の実践に取り組んだ私の経験では、これからご紹介する一枚のシートを使った方が圧倒的に高い確率で成果を上げることができます。
その理由は二つあります。一つは「経営計画」の10の項目の関連性がひと目でわかること、もう一つはその10項目を浸透させやすいことです。
「ビジョン実現シート」は、「経営理念」や「行動理念」「5ヵ年事業計画」などの「経営計画」の要素が一枚のシートにわかりやすくレイアウトされています。これによって、すべての要素がどう関連するかがひと目でわかります。自社が「いつ」「どこへ」 「どうやって」向かっていくのかが把握できるため、「経営計画」に対する社員の理解度を深めることができるのです。
また、シート一枚にまとまっているため、次項で述べるように「経営計画」の内容を常に社員の目に触れさせることができ、意識づけを図れます。 冊子形式のものでは、こうはいきません。最初のうちは読まれることはあっても、しばらくすると、ロッカーや引き出しの中にしまわれ、開かれることがなくなってしまいます。常に目に触れさせるフォーマットにすることで、「経営計画」を形式的に知っているというだけでなく、理解、浸透させ、実践に結びつきやすくするのです。料そして「ビジョン実現型経営計画」の取組みプロジェクト名を決め、「ビジョン実現シート」に明記し、打ち出します。
◎2 「経営計画」といつも一緒にすごす工夫
「経営計画」を「ビジョン実現シート」にまとめたら、フォーマットの特徴を活かして、社員全員がいつも「ビジョン実現シート」を目にする状態にあるように工夫します。
具体的には三つ方法があります。
一つはカード形式にして全社員に持たせる方法です。 リッツ・カールトンホテルが最高のサービスを提供するためのツールとして活用し、有名な「クレドカード」をイメージしていただければよいでしょう。
1ページが名刺サイズのものを三つ折で8ページ、あるいは二つ折で4ページとして、「経営計画」の内容を各ページに掲載します。ただし、ページ数や大きさに限りがあるので、「経営計画」の内容の一部とする場合が多いです。私たちは、「経営理念」「基本方針」「行動理念」 「ビジョン」「人事理念」の5項目の掲載をお勧めしています。
二つ目は、「ビジョン実現シート」を目に見える場所に社員各自が貼っておく方法です。 デスク周りやパソコンのモニターなど仕事中にいつも目にとまる場所に貼り、ことあるごとに意識してもらうようにします。打ち合わせスペースなど、多くの社員が使う場所にも掲示してください。
三つ目の方法は、「ビジョン実現シート」をそのまま持ち歩くことです。具体的には日常使っているスケジュール帳などにはさんで携帯します。手帳を開いたときすぐに「ビジョン実現シート」が目に入ってくる状態が理想です。A4、A3サイズの「ビジョン実現シート」をさらに縮小する場合もあります。文字が小さく読みづらくならないよう工夫しましょう。
この三つのいずれか、あるいは複数を取り入れてください。 すべてを実行できればベストです。
◎3 暗唱できていないと実行もできない
「経営計画」の「経営理念」「基本方針」「行動理念」 「人事理念」は、全社員が暗証できる状態を目指します。これらの内容が頭に入っている状態でなければ、常に実行できる状態にはならないからです。
具体的には、朝礼、各会議・ミーティングなどの場で社員で唱和をします。最初はクレドカードなどを見ながらでよいのですが、最終的には暗唱できる状態を目指しましょう。
◎4「理念テスト」で浸透度をチェックする
「経営計画」の浸透度は定期的に「理念テスト」を実施してチェックします。
最初は「経営理念」や「行動理念」を暗記しているかチェックテストを行います。全社員が満点をとれるようになるまで徹底して実施しましょう。
また、「基本方針」や「行動理念」の内容を変更したり、新しい社員が入ったりした場合は、その都度チェックテストを行ってください。
このテストを行っている会社とそうでない会社の社員を比較すると、「経営理念」や「行動理念」に対する意識と行動に大きな差が見られます。
「丸暗記するだけでは効果はない」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、「行動理念」などの文言すべてが頭に入っていれば、いつでも瞬時に「行動理念」と照らし合わせてものごとを考え、比較できるようになります。その結果、「理念」にそった行動をとれる機会が増えていきます。結果として理念の実践度合いが徐々に高まっていきます。
また、「理念」関連の項目の暗記が全社員で徹底できたら、理念を具体的に現場で実践するための業務規則やマニュアルを作成し、その内容をテストするとよいでしょう。
◎5 「理念ミーティング」を実施する
五つ目の「経営計画」浸透、実践の仕組みは「理念ミーティング」です。具体的には、次の三つを社員同士で報告し合う場を持ちましょう。
①自分自身が「経営理念」や「行動理念」にそって行動した具体的事例とその成果、お客様からの声など
②他社の事例のなかで、自社の理念につながるもの、参考になるもの
③自分がプライベートで体験したサービスや購入した商品で、自社の理念に参考になるもの
会社の規模や業態にもよりますが、 社長も参加し社員全員で行うのがベストです。難しい場合は、店舗や営業所ごと、部署ごとの開催でかまいません。少なくとも毎月1回開催時間は1時間程度とれるとよいでしょう。時間の確保が難しい場合は、10分でもよいので朝礼などの場で毎日行ってトータルでの量を確保してください。
また、社員たちから報告があった具体的な事例や体験は記録し、理念事例集としてまとめて、教育や指導の場や理念を浸透させるツールとして活用します。
◎6 社長がメッセージを発信し続ける
理念の浸透のために大事なのが、社長自身がメッセージを発信し続ける仕組みです。
・理念を通じてどのように顧客や地域、社会に貢献するか
・やりがい、働きがいをもってもらうためにどんな社会にするか
・自社の理念が必要とされる時代背景や環境、世の中の出来事
・創業時の考え方
・過去の会社の危機や苦労
このような内容を次のような方法で発信します。
・理念研修を実施する
・幹部・リーダーとの会議の場で考え方を伝える
・朝礼や会議の場でメッセージを伝える
・社内メールでメッセージを発信する
・社内報やFAXなど文章で伝える
・動画でメッセージを伝える
ポイントは定期的に継続して発信し続けること。 理念の浸透、実践に終わりはありません。しつこいくらいに何度も何度も繰り返し伝えましょう。
目指すべきは、理念が伝わることではなく、後継者にバトンタッチしても理念がおのずと伝承され続け、100年後もあたり前に全社員が実践できている状態です。
◎7 浸透・実践度を見える化する
次にご紹介するのは、「理念・方針浸透度アンケート」です。 これまで行ってきた「経営計画」や「理念」浸透の取組みの効果を数値で計測します。
次ページに弊社のクライアントで実際実施したものをご紹介しています。本書の内容にそって「経営計画」を作成していれば、それをそのまま当てはめれば実施できる構成です。ぜひ活用してください。
これによって、「経営計画」のどの部分が浸透していて、どこが不十分なのかひと目でわかります。
また、部署や店舗別に結果を分析することで浸透、実践ができていない部署や店舗が明確になり、そのリーダーを指導したり、社長や幹部が対応するなど、具体的な対策がとれます。アンケートは期末近くに、毎年実施してください。 こうすることで、新入社員の理解度や浸透度も把握でき、その年の理念に関する教育やコミュニケーションの量や質を検証できます。
対外的にも「経営計画」の浸透、実践度を数値で明確に発信することができるようになります。何より、社長がいちばん知りたいデータではないでしょうか。
◎8 「経営計画発表会」で毎年「ビジョン」を共有する
すでにご紹介しましたが、「経営計画発表会」は、社長と全社員が「ビジョン」を共有する場です。
この「経営計画発表会」は、第1回目の開催以降も、年1回の節目のイベントとして全社員参加で毎年開催します。
開催時期は、年度末にできるだけ近い日程で行うか、期首に行うかを決めておくとよいでしょう。
期末の忙しさや業績数値がどのくらいで把握できるかなどでタイミングの違いはあってかまいません。
期首の第1週の土曜日というように毎年の開催日程を決めておくと、社長を含めた全社員がそこに向けて動きやすくなります。
もう一つ、この日の後半には別のイベントを開催します。
それは、全社員が参加する懇親会です。
「経営計画発表会」そのものは厳粛な雰囲気で開催します。これに対して、懇親会は和やかな雰囲気で開催することによってメリハリをつけます。食事やアルコールもとりながら前半の「経営計画発表会」に対する思いや本音を聞き出す場としても活用します。
新しい期をスターする社内最大のイベントとして、会場はホテルなど社外の会場で行ってください。
また「半期キックオフ」を行うのも効果的です。 上期の振り返りを行い、下期の半年間、目標達成のためには何が課題で、何をどこまでやるのか、全社員で共有します。 「経営計画発表会」のように会場などにこだわる必要はありませんが、できるだけ全社員が一堂に会して行うのがよいでしょう。