【株式会社アクト】
ビジョナリー・カンパニーの具体的な仕組みを「ビジョン実現型経営計画」で実践!
業界のリーディングカンパニーに
所在地:埼玉県戸田市美女木4-2-15
代表:代表取締役 伊藤啓介
業務内容:リサイクル業
創業: 創業1975年/設立 1991年
資本金:1000万円 従業員数:57名
◎スタッフ30人中10人が退職、彼らが教えてくれた成長のきっかけ
電動工具を中心としたリサイクルショップを埼玉・西東京エリアで展開する株式会社アクト。現在では電動工具分野では業界トップに成長、FC展開や他社へノウハウの指導なども行い、全国から注目を集める企業になっています。この成長の基盤をつくったのが「ビジョン実現型経営計画」 への取組みでした。しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。
転機となった出来事が2009年に起こりました。1店舗のスタッフほぼ全員、10人がいきなり退職したのです。彼らが残した、今でも伊藤啓介社長の脳裏に焼きついている一言があります。
「会社は、俺たちのことを見てくれない」
この“事件”をきっかけに当時マネージャーだった伊藤社長は会社を根本から変えていく覚悟をしました。
まず伊藤社長は、会社をよくするために学び、情報収集に奔走します。 経営に関する書籍を読みあさり、多くのセミナーや研修に参加し、異業種交流会などで成功している社長の話を聞いてまわりました。
その中でまずはっきりしたことは、会社を一つにまとめるためには 「理念」が必要だということでした。10人ものスタッフが集団退職してしまったのは、彼らと理念が共有できていなかったことがもっとも大きな要因だと気づいたのです。 早速、伊藤社長は理念づくりにとりかかろうと動きます。ところが、書籍を読んでも、研修に参加しても理念の考え方や重要性については教えてくれるのですが、肝心の具体的な作成方法を指導してくれる書籍や研修は一つもありませんでした。
◎ 「ビジョン実現型経営計画」でビジョナリー・カンパニーづくりに向けた取組みをスタート
「悩みをかかえて書店に行ったとき、1冊の本が目に留まりました。それが、山元さんの本だったんです。中を読んでみるとまさに「目からうろこ』でした。『経営理念』のつくり方が手順を追って具体的に書いてあり、さらにこれを社員に浸透させ、実践するための「人事評価制度」についてもわかりやすく書いてあったんですね」(伊藤社長)
また、伊藤社長が当時から悩んだときにいつも読み返して参考にしていた経営書の名著『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ) の一節とも重なったそうです。
「ビジョナリー・カンパニーは、自社の理念に基づいて、それを絶えず強化するように一貫したシグナルを送り続ける具体的な仕組みを確立している」という部分です。 「ビジョン実現型経営計画」が理念を評価基準に落とし込み、評価と面談で定期的にシグナルを送り続けるものだと、伊藤社長のなかで完
全に一致したと言います。この「経営計画」と「人事評価制度」で理念経営を実践する仕組みは他のどこにもないものでした。
早速、伊藤社長は手順にそって「経営理念」を作成しました。
しかし、本を読み進めながら「経営計画」づくりに取り組む過程でどうしても自信が持てない部分も出てきました。そこで、私のところへ相談がきて、直接コンサルティングを行いながら「経営計画」づくりとその実践に取り組むことになりました。
伊藤社長の勉強量と情報量は、相当なもので、「経営計画」づくりは順調に進みました。”リユースサービスを通じてお客様に幸せをもたらします”という「経営理念」にもとづいて“全国NO.1″ という高い「ビジョン」を明確に定め、「5ヵ年事業計画」もこれからの出店計画を盛り込み、わかりやすいものにしました。これにそった「人材育成計画」も策定し、“人間力が成長し、チャレンジ精神と思いやりにあふれた人材の宝庫にする”という「人事理念」のもと、評価制度を通じて人材の育成に取り組むことを決めました。
そして、2012年の7月にむかえた「経営計画発表会」。伊藤社長はIT企業出身で、プレゼンのスキルも研修などで磨いていたため、発表会の内容やその資料はすばらしくレベルの高い、同席していた私も非常に参考になるものでした。
「発表は大成功!!スタッフに社長の熱い思いが伝わって、モチベーションもかなり上がったに違いない」と私は大いに期待を寄せました。
ところが……。 そんな期待とは裏腹に、スタッフの反応は冷たいものでした。 特に、中心となって改革の推進を担ってもらわなければならない店長たちから、
「現場が忙しいのに面倒くさい。こんなことに取り組んでいる暇はない」
「全国NO.1なんて大それたことが実現できるわけがないし、目指したくない」
こんな反発の声ばかりが聞こえてきました。
まさに、以前ご紹介したような社長とリーダーの勉強量の差が「経営計画」導入の障害になってしまったのです。
ナンバー2の幹部、川口信明マネージャーは当時を振り返って本音で語ってくれました。
「〝理念〟なんて。きっと社長(当時はマネージャー)はどこかの宗教団体にそそのかされたんだと思いました。机上の論理を現場に持ち込んでもうまくいくわけがない。 お手並み拝見といこうか。あのときはそんな心境でしたね」
◎スタートの「しくじり」をばねに実践を徹底
私は、伊藤社長が「経営計画発表会」の皆の反応にかなり落胆しているのではないかと心配をしていました。しかし、後日お会いしたところ、伊藤社長はまったく正反対のとらえ方をしていらっしゃいました。
「このような反応は十分予測していたことです。逆にやりがいがあるじゃないですか!」なんとも心強い決意です。
ここから伊藤社長が徹底したのは二つだけ。 「アクションプラン」と「評価制度」のPDCAです。
まず効果が現れたのは「評価制度」です。
伊藤社長は、評価のPDCAサイクルをまわすなかで 「育成面談」と「チャレンジ面談」を徹底しました。具体的にはスタッフ全員の育成面談と毎月の「チャレンジ面談」にもできるだけ同席し、自らの思いを伝え続けたのです。この原動力になったのが、冒頭にご紹介した10人が辞めたときに残した「会社は俺たちのことを見てくれない」という言葉でした。
面談を通じた評価結果や本人の成長目標、毎月の進捗状況を伊藤社長も一緒になって確認し、アドバイスを行いながら「会社がスタッフ全員をきちんと見ているよ」ということを伝え続けたのです。
そして同時にこの改革の目的は「スタッフ全員の幸せの実現が目的」であること、そのためには、「ビジョンや「5ヵ年事業計画』の達成が必須だということ」を伝え続けたのです。
すると、3回目の「育成面談」を終えたころからでしょうか。現場のスタッフからこんな声が聞こえてきたのです。
「店長が細かいところまで自分のがんばりを見てくれるようになった」
「自分の仕事ぶりが評価されてうれしい」
「自分の改善点や目標がわかったのでやる気につながる」
店舗スタッフの育成面談には店長も同席しています。こうしたスタッフたちの変化や成長を目の当たりにした店長たちも、当初反発していた状態から徐々にその効果を認め、真剣に改革プロジェクトに取り組むようになっていきました。
◎期日を設定した「アクションプラン」がリーダーを成長させた
もう一つ、伊藤社長と店長たちが「経営計画発表会」の後スタートさせたのが「アクションプラン会議」です。「「アクションプラン会議』で気をつけたことが一つあります。それは、私が決めるのではなく、店長たちが自ら何をやるべきかを考え、決め、実行するよう工夫したことです」(伊藤社長)
実際、伊藤社長は、ナンバー2候補として育てようとしていた川口マネージャー(当時店長)にアクションプランの進行やとりまとめをしてもらう形へ徐々にシフトさせていきました。
以前ご紹介したように「アクションプラン会議」はアクションプラン担当者が実行状況を報告し、成功事例や課題を参加メンバーと共有しながら進めます。 アクトでは、多店舗を運営する経営の形態をとっているため、会議では、各店の店長が自店でやるべきことが実行できたかどうかを報告します。
しかし、当初は、何をどう報告したらよいのか把握できず、なかなか自分たちだけでは会議の形にはなりませんでした。スタートして半年間くらいは、私たちの質問に答える形式で「アクションプラン会議」を進めました。こうしているうちに、店舗での実行状況を事前に報告書にまとめて提出しておけば「アクションプラン会議」のときも、これにそって報告すればよく、報告する側、聞く側双方の理解度が深まり、会議の生産性もアップするだろうというアイデアが生まれました。これをもとに作成、導入したのが、「アクションプラン推進レポート」(168ページ)です。この「アクションプラン推進レポート」を活用することによって、ナンバー2の川口さんも店長たちも成長しました。
まず、店長は「アクションプラン推進レポート」を月末までにマネージャーの川口さんに提出しなければなりません。「アクションプラン推進レポート」には、あらかじめ「進捗状況とスケジュールから遅れている場合はその原因」「得られた成果」「課題と解決策」を記入する必要があります。 これらを提
出することによって店長たちは、アクションプランについて積極的にかかわり、自ら考え、行動するようになりました。
また、提出を受けた川口マネージャーも全店長の「アクションプラン」に目を通し、追加・修正の指示、アドバイスの面談を行います。 これを受けて「アクションプラン推進レポート」を修正し、再提出したうえで「アクションプラン会議」を毎月第2週に行います。
「アクションプラン会議」後、各店長はその週のうちに店舗内ミーティングを行い、自店の全スタッフに決められた内容と店舗で実施すること、スケジュールを伝えることが決められています。
◎社長の”ホラ”がみんなの“ビジョン”に
「最初は『うっとうしい』と感じることも何度もありました。しかし、私自身が計画的に仕事を進めることが苦手だからそう感じただけで、逆に苦手だからこそできるようにならなければならないと気づきました」
と同時に、「経営計画」の効果と将来の明確なビジョンを掲げることの重要性を実感したと川口マネージャーは言います。
「『経営計画』に “2030年、50店舗〟という具体的な数字が入っていたのがよかったと思います。それまでは、ただひたすら目の前の売上を上げるために現場を動かしてきましたが、その先のゴールが数値で示されたことで、いつも意識するようになり、これをふまえて今、何を行うべきかという発想に変わりました。”経験と勘”をもとにしたフィーリングで現場を動かしていた状態から、数字で分析した結果をもとに指導や改善を行うようになってきました。こうすることで、これまで見えなかったことがわかったり、指導に説得力を持たせることができ、リーダー、部下双方の成長スピードが速まったと感じています」
また、集団退職のあった店舗を中心となって建て直した女性スタッフの丹治裕美さん。今では人事部の長として全社の採用と教育を一手に任されています。 評価制度導入時には、女性としては唯一の評価者として評価に取り組みました。
「社長のビジョンを最初聞いたときはあっけにとられましたし、評価とは何なのか、何のためにやっているのか、なぜ必要なのか、まったくわかりませんでした。それが、回を重ね、3年目くらいからでしょうか、日本人事経営研究室さんのいう『評価=人材育成』という意味が少しずつ理解できるようになってきました」
こうしてアクトでは、社長とリーダーたちが試行錯誤しながら、「アクションプラン」と「評価制度」の双方にパート社員も含めたスタッフ全員を巻き込みながらPDCAの仕組みをまわしていきました。その結果、当初立てた「5ヵ年事業計画」を上まわる業績を実現したのです。
「5年間必死で走り続けて、ふと振り返ってみると、当時は“大ボラ”だと思っていたビジョンが本当に実現してしまうのでは、と思えるようになった」と丹治さんは言います。きっと、彼女だけではなく、5年前からいるスタッフは全員同じ思いなのでしょう。
これからもさまざまな課題に直面し、立ち止まってしまうこともあるかもしれません。ですが、彼らならきっと乗り越えてくれるでしょう。
アクトさんの成長を、2030年のビジョンが実現するまで一緒に見届けるつもりです。